静岡地方裁判所 昭和48年(ワ)246号 判決 1974年3月29日
原告
青山千江
被告
伊藤久志
ほか一名
主文
被告らは原告に対し連帯して金三〇六万三、七〇三円及びこれに対する昭和四六年九月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
この判決は仮に執行することができる。
事実
原告訴訴代理人は主文同旨の判決並びに仮執行宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。
一 交通事故の発生
1 発生日時 昭和四六年九月二五日 午後六時四五分頃
2 発生場所 静岡市大谷九一七の四
3 加害車両 静岡ま一五〇三号
運転者 被告伊藤
4 態様 原告が道路左端を歩行中、後より加害車両に追突され転倒、重傷を負つた。
二 原告の受傷
原告はこの事故のため、右前腕開放骨折、右前腕伸筋群挫滅創、右第一〇肋骨骨折、骨盤骨折、四肢挫傷、腰椎横突起骨折などの重傷を負い、直ちに静岡日赤病院に入院し、昭和四八年二月二日まで、一三一日間の入院加療をつづけその後昭和四七年二月三日から、昭和四八年五月二四日まで約一年四カ月の通院をした。この間昭和四八年一月二〇日には同病院に再入院して、右肘の手術を受け、同月三一日に退院した。そして現在も重い後遺症が残り、治療の見込はない。
三 被告らの責任原因
被告杉浦は本件加害車両の所有者であるから、自賠法第三条により、被告伊藤は、無免許であるのに、後部座席に訴外有賀良晴を乗せるという無謀な運転をし、前方注視義務を欠いて、歩行中の原告に追突するという重大な事故をおこしたのであるから、その過失は明らかであり民法七〇九条により、それぞれ原告の損害を賠償する義務がある。
四 原告の損害
(1) 休業補償 金一、三五三、七五八円
原告は事故当時静岡大学生活協同組合に勤務して、賃金と年二回賞与を得ていたところ、事故のときから、現在まで、その全てを喪失した。その明細は次のとおりである。
(イ) 昭和四六年一〇月分から、昭和四七年三月分までは月額四三、〇六三円の賃金(但し、四六年一〇月分については、二八、二六三円)
(ロ) 昭和四七年四月分から昭和四八年六月分までは月額五二、四六三円の賃金
右(イ)(ロ)の賃金合計額は金一、〇三〇、五二三円である。
(ハ) 賞与は毎年夏に本給の二カ月分、冬に本給の三カ月分が支給される。
昭和四六年冬の賞与の損害 金六〇、九二〇円
(一部の支給があつた。)
昭和四七年夏の賞与の損害 金一〇四、九二六円
昭和四七年冬の賞与の損害 金一五七、三八九円
右賞与の損害合計は金三二三、二三五円
(ニ) よつて、事故による賃金と賞与の損害の合計は金一、三五三、七五八円となる。
(2) 治療費及び通院費 金五七万三、〇二七円
(イ) 治療費 一〇四万一、九八七円
原告は総合病院静岡赤十字病院(以下静岡赤十字という)に昭和四六年九月二五日から同四七年二月二日までと同四八年一月二〇日から同年一月三一日までの一二七日間入院し同四七年二月三日から同四八年五月二四日まで(但し右入院期間を除く)の間二七五日通院し同病院に右治療費を支払つた。
(ロ) 通院費 三万一、〇四〇円
原告は右病院への通院費として右金員を支払つた。
(ハ) 従つて原告の治療費は合計一〇七万三、〇二七円となるところ原告は本件交通事故につき自賠責保険金五〇万円を受領したのでこれを右治療費に充当した。従つてその残額五七万三、〇二七円となる。
(3) 附添料
原告は重傷で入院後しばらくの間身動きできない状態であつたため、昭和四六年九月二六日から、同年一一月三〇日まで六六日間、訴外神谷みさえ外二名がつきそつたが、その附添料を一日二、〇〇〇円とみて、その合計額
(4) 入院雑費 二万八、六〇〇円
原告の入院実日数一四三日間の一日二〇〇円の割合による入院雑費の合計額
(5) 慰藉料 一、〇〇〇、〇〇〇円
原告は重傷により、二度の入院と、一年四カ月の通院をしなければならなかつたし、右腕に醜い痕を残すのみか、右腕と右手の指の屈伸が不自由となり、関節が充分に機能しない。そのため日常生活に重大な支障をきたしているが、医師の所見では改善の見込はこれ以上ないとされて、昭和四八年五月二四日に治療は打ち切られた。従つて原告のうけた精神的肉体的苦痛は甚大であつて、一〇〇万円の慰藉料が相当である。
五 結論
よつて、原告は被告両名に対し、右損害の合計金三、〇六三、七〇三円とこれに対する不法行為の翌日である昭和四六年九月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
被告等は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、
被告伊藤は第一ないし三項は認めるも、第四項は不知と述べ、被告杉浦は第一、二項は不知、第三項中被告杉浦が加害車両の所有者であることは否認するも、その余は不知、第四項は不知。と述べ、
被告杉浦は次のとおり主張した。
加害車両はもと被告杉浦の所有であつたが、昭和四六年六月一五日頃これを訴外望月実(以下望月という)に代金一三万円但し同四七年七月までに割賦弁済を完了する約で売渡しその頃右車両を望月に引渡した。望月は同四七年七月に右代金の支払を完了したが所有名の変更手続が遅滞していた。
従つて本件事故発生当時加害車両の保有者は望月であるから被告杉浦には自賠法三条の責任はない。〔証拠関係略〕
理由
一 本件事故及び原告の受傷
請求原因第一、二項の事実は、原告、被告伊藤との間では争いがなく、被告杉浦との間では〔証拠略〕によつて認められ、右認定を履すに足る証拠はない。
二 被告らの責任原因
請求原因第三項の事実は原、被告伊藤間で争いがない。
被告杉浦は本件事故当時加害車両を保有していなかつた旨主張するが、その〔証拠略〕によれば、同被告は昭和四五年七月二四日頃田中商会から加害車両を代金約二一万円、但し頭金として四万円を即金で支払い残額約一六万円を同月から昭和四七年六月頃まで毎月約六、九〇〇円宛割賦弁済する約で買受け、右昭和四五年七月二四日頃その所有権を取得したが、右月賦金の支払途中である同四六年六月頃加害車両を残りの月賦金は買主が負担する約束で望月に売渡した。ところが田中商会が右月賦金を被告杉浦が完済するまで右車両の所有名義の変更を許さなかつたので、望月に右車両を引渡した後もその所有名義は被告杉浦となつており、且つ自賠保険契約者及び車検上の使用者も同被告となつていた。望月は昭和四七年六月頃田中商会に対し前記月賦金を完済したが本件事故はその前の昭和四六年九月二五日に発生したことが認められ、右認定を覆するに足る証拠はない。右事実によれば被告杉浦は本件事故当時加害車両の運行につき利益を有し、且つその運行を支配しえたものと認められるから、右車両の運行供用者と認めるのが相当である。
三 原告の損害
(1) 休業補償 一三五万三、七五八円
〔証拠略〕を総合すると請求原因第四項(1)の事実が認められ、右認定を覆するに足る証拠はない。
(2) 治療費及び通院費 五七万三、〇二七円
〔証拠略〕を総合すると請求原因第四項(2)の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(3) 附添料 一三万二、〇〇〇円
(4) 入院雑費 二万八、六〇〇円
原告本人尋問の結果に前(2)項の事実を総合すると請求原因第四項(3)(4)の事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。
(5) 慰藉料
〔証拠略〕に前記認定事実を総合すると原告は静岡赤十字に通算一二七日入院し、二七五日間通院したが完全に治癒せず、右腕に醜い傷痕を残し、右手関節及び右手指の屈伸が不自由で物をつかんだり握つたりするのに不自由を感じ日常生活に重大な支障を来たすという後遺症が残つた。
又原告は右治療のために長期の休職の故に勤め先の静岡大学生活協同組合を昭和四八年一〇月三一日退職せざるを得なくなり、且つ、右後遺症のため原告は昭和四八年一二月及び翌四九年一月の二回にわたり右静岡大学生活協同組合に復職を申込んだが拒わられ、現在は無職、無収入で生活保護を受けていることが認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。右事実に前記認定の事故の態様その他諸般の事情を総合するとその慰藉料は一〇〇万円をもつて相当である。
五 結論
以上の次第で被告らに対し連帯して前項の損害合計三〇八万七、三八五円のうち三〇六万三、七〇三円及びこれに対する本件交通事故発生の翌日である昭和四六年九月二六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することにし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 元吉麗子)